IPO支援の魅力(平成8年卒・茂田井純一)

 

n  IPOの概況

IPOという言葉をご存じですか?株式投資を行っている方には馴染みがあるでしょうが、一般的にはあまりポピュラーでない言葉かもしれません。

Initial Public Offeringの頭文字を取った言葉であり、直訳すると会社の初めての公募増資(不特定多数の投資家からの資金調達)という意味になり、必ずしも上場を指すわけではないですが、実務的には新規に上場企業になることを表す言葉として使われています。

2018年にIPOにより新たに上場企業となったのは90社、逆に上場廃止となった企業が49社。東京証券取引所に上場する企業が約3,600社社ですので、上場企業全体の数%が毎年入れ替わり、これによってマーケットの新陳代謝が行われています。

 

過去20年間のIPO動向が下記になります。ネットバブルと言われベンチャーブームが起こった2000年代半ばまでは毎年150200社が上場していましたが、リーマンショックやライブドアショックが起こった2000年代後半からしばらくは冬の時代が続きます。そして、ここ数年の回復傾向を経て8090水準社が続いており、おそらく今後も継続的に、この程度の会社数がIPOしていくものと推察されます。

 

IPOする会社は将来大きな成長が見込まれる事業を行っていることが多く、そのため毎年時流を反映した企業名を見ることができます。例えば昨年(2018年)であれば、

・ベルトラ、和心(インバウンド観光)

HEROZKudanAI

・メルカリ(CtoC

・自立制御システム研究所(ドローン)

など、将来性が期待されるキーワードを持った企業たち。おそらくこの中から、将来の日本を牽引する企業が産まれてくるでしょう。

2019年以降に上場を目指すIPO予備軍の中にも、成長著しい企業がたくさんあります。こういった新しいビジネスモデル(中には、日本初、世界初の技術・サービスを持った会社も多々あります)に触れることができるのがとても楽しいですし、そんな流れをみていると、日本の将来を悲観する必要はないなと、つくづく実感します。

 

また、従来起業家には一橋出身者があまりおらず、有名なところでは楽天くらいでしたが、最近は一橋OBが起業した会社もIPOする場面も見られるようになっています。

  ・レアジョブ(オンライン英会話)

  ・フィルカンパニー(駐車場用地の確認)

 

 

n  IPO準備について

IPO準備支援のメインプレイヤーは証券会社と監査法人の2者。極論を言えば彼ら以外にはプレーヤーは不要です。

証券会社はビジネスモデルや社内管理体制を、監査法人は決算数値や経理体制を数年かけて、上場起業にふさわしいレベルに達しているかをチェックしていきます。その意味で、彼らは民間企業でありながら、半ば公的な使命も帯びて業務を行っています。

 

しかし彼らも組織人、最終的には自分の所属する組織の意見や利益を優先するので、その意見が必ずしもIPO準備会社と一致するとは限りません。放っておくと、会社の利益を犠牲に、彼らの都合で会社が振り回されてしまうこともあります。

また、IPO準備作業の過程において、専門用語を理解し、かつ最終形を想定できる人材が社内にいないと、プロジェクトが進まず立ち往生することが多いです。証券会社や監査法人は助言はしてくれますが、手を動かすのはあくまで会社自身。内部に事情を理解する人を置かないとプロジェクトは遅々としてすすみません。永遠の上場準備会社をリビングデッド(生ける屍)と言うこともありますが、そういった会社の中には、会社が進むべき道を明示できないような永遠の迷子の会社も含まれています。

 

そこで、IPO後までをイメージして会社に足りないものを抽出でき、かつ会社の側に立ってその利益を考えられる人が必要となります。私はその立場で各社に参画させて頂いております。約20IPO業界にいますが、関与先が年1社以上のペースでIPOしており、なかなかいいペースだと自負しています。

なお、無事に上場した企業では社外役員として携わることもあり、現在3社の東証1部上場企業の社外監査役にも就任しています。

 

IPOのメリットは様々ありますが、やはりなんと言っても信用力。「上場企業」なら良質な取引先を開拓できますし、優秀な人材も多数入社してくれます。特に昨今のビジネスシーンでは、一人の天才によるアイディアが数万人の雇用を産み出すこともあるわけで、人の確保はなによりも大事、そのための一つの武器として、上場企業になるというのは大きな強みになります。

そのほか、資本市場を通じた資金調達やM&Aが容易になること、株式報酬を利用した役員・従業員へのインセンティブプランの設計など、経営の自由度を高めることもできるため、IPOを契機として事業を大きく拡大していくことが可能となります。

経営者だけでなく従業員にもメリットはあります。ストックオプションや持株会で財産形成できることはもとより、上場企業の従業員ということで住宅ローンの審査が通りやすくなったり婚活市場で評価が上がったり。。。地味ではありますが、普段の生活に密着するところでも「上場企業の従業員」はメリットを受けやすいです。

 

一方で、上場企業は社会の公器として、社会的責任を求められます。そのため、経営数値を四半期毎に開示しなければならなかったり、内部管理体制をより厳格にする必要があったり、社外の役員を受け入れなければならなかったり、負荷が増加する部分も多々あります。

しかし、上場企業になると、それを補って余りあるメリットを享受できるので、会社のさらなる成長には、一つの大きなツールとしてIPOを用いるのは非常に有効なツールと言えるでしょう。

 

 

そんなメリットの多いIPO。しかしIPOを経て上場企業となるためには、証券会社の審査、監査法人による決算監査、取引所による審査をパスしなければなりません。誰でも安心して株を買える会社になるためには、事業活動が適切に行われているだけではなく、ビジネスの成長性、社内管理体制や役員の適格性など、様々な観点から審査が行われます。

そしてこの審査基準、世の趨勢により特に重点的に審査される箇所が変わります。例えば最近重点的に審査されているのは、某大手企業の事件を発端とした過剰な残業を強いない労務管理、コンプライアンス体制などであり、それぞれ社会問題となった事件を契機に厳しくなっています。

ただ、一般的には「上場審査をパスするのは大変だ」と言われていますが、私はそうは思いません。審査上求められることは一見難しそうなことばかりですが、よくよく考えると、上場企業に限らず経営上必要とされるものばかりです。経営者が真面目に会社のことを考え実践していくと、自ずと上場基準に近づいていきます。私はよく「IPOを目指すということは普通の会社になること」という言い方をしています。人と同じで、当たり前のことを当たり前にやっていけば、自ずと良い会社になる、そういうことです(それが一番難しかったりするところも人間と同じですが・・・)。

 

 

 

n  IPO支援という仕事の魅力

 

2つあります。

 

1つ目は、IPOという会社の転換点となる一大プロジェクトに参加できるので、無事上場したときの達成感はとても大きいです。決して一人ではできない仕事なので、社員の方とチームを組み、皆で連日検討し、議論し、時にはケンカをしながら上場できたときの高揚感。例えて言うならリーグ戦で優勝し昇格したようなものでしょうか(私は優勝経験ありませんが・・・)。

そうやって苦楽を共にしたメンバーなので、相互の信頼関係も強くなります。20年以上も前に上場した会社の方と未だに飲みにいったり、新たな仕事の打診を頂いたりと、継続的に良い関係を続けさせて頂いている方が多いです。

雑居ビルの一室、社員数人で始めた会社が、気づくと都心の一等地にオフィスを構える社員数百人の会社になっている。その過程を知るもの同士の連帯感は、相当に強いです。

 

 

もう1つの魅力は、数多くの経営者に会えること。サラリーマン社長でなく創業経営者、中でも「事業をもっと拡大して将来IPOしてやろう」と考えているくらいの方々ですから、その独創性と推進力は半端ないです。四六時中、自分の会社のことを考え、新しいビジネスモデルを考え。人生そのものが事業活動になっているような経営者がほとんどです。クセも相当強いですが、人としての面白さも相当です。常に新しいことや面白いこと、ビジネスチャンスを求めてアンテナを張り、人と違った視点で物事を捉える、そんな人たちと日夜接しているので、刺激でいっぱいな毎日です。

また、社員の雇用を抱え彼らだけでなくその先にいる家族の生活まで背負い込んで真剣に悩んでいる責任感も経営者ならでは。陳腐な表現かもしれませんが、金融機関の借入に自分の家屋敷を担保に差し入れて従業員の生活まで背負い込んでいる経営者は、迫力が違います。

 

面白いもので、会社には社長の考え方や価値観がそのまま投影されます。やはり社員は社長が何を大事にしているかを見ているから、自ずとそれが事業活動や会社の雰囲気に反映されていくものなのです。従って、会社が伸びていくためには社長が成長することが大事。僭越ながら、それなりの人数の経営者にお会いしてきた経験を踏まえ、様々な観点から社長に助言させて頂くことも多々あります。

しかし、社長というのは元来孤独な職業。外野が何を言っても聞いているふりをして聞かないことも多く、「何度も言ってるのに分かってくれないなぁ」「何度同じこと聞いてくるのだろう」と、いつももどかしい思いをしています。ただ不思議なもので、同じ経営者仲間の言うことは素直に聞くもの。特に自分より年配で、より会社を大きくした先輩経営者の言葉は。そういう“良き先輩経営者”が周りにいてくれると、社長はどんどん成長していく、その過程を見ることができるのも、面白さだと思っています。

 

 

IPOという仕事は、会社という法人やビジネスだけでなく、経営者や従業員という構成員個人も成長しステージを変えていける、そんな魅力にあふれた仕事だと実感しています。

 

また、成長企業を世に送り出すことで、少しは日本経済に貢献できているのではないか、そう思い日夜邁進させて頂いております。