卓球と軟式テニス

S50年卒・金井章男

 

 実は、中学・高校の頃、私は卓球をやっていて、大学に入ってから軟式テニスを始めた。卓球をやっていた時も、軟式テニスをやっていた時も私は下手くそでクラブのお荷物だった。卒業後は硬式テニスに転向して週末プレーを楽しんでいるが、やっぱり下手くそで地元の所属クラブのお荷物だ。だから、私がこれを語るのにふさわしいかどうかはわからないが、皆様にも興味深いのではないかと書いてみることにした。  

 

 卓球はテーブルテニスというくらいだからテニスとよく似ている。地面でなく台上の球を打ち、ボレーがないから必ずワンバウンドさせてから打つところくらいが大きく違うところである。私が面白いと指摘したいのは、同じ台(すなわちテニスのコートである)、同じ球という同じ土俵で軟式スタイルのプレーヤーと硬式スタイルのプレーヤーが争ってきたところである。

 

 軟式スタイルのプレーヤーとはpenholderグリップといってペンを持つように握るグリップで、フォアもバックも同じ面で打つ。まさしく軟式テニスのスタイルだと言える。もう一方はshakehandグリップで文字通り握手するように握るグリップであり、硬式テニスの握りに相当し、バックハンドは反対側の面を使って打つものだ。この2つのスタイルが鎬を削ってきた。

 

 当然テニスの亜種みたいなものだからshakehandグリップからスタートしたはずだし、ヨーロッパの選手は私が卓球を始めた頃もこのスタイルであった。しかし、日本に荻村一郎が現れ、penholderグリップで世界選手権12個の金メダルを取った。まさしくpenholderグリップ(つまり軟式スタイル)が世界の覇権を握ったのである。その後世界王者に君臨した中国の荘則棟もpenholderグリップであるが世界選手権で8個の金メダルを取っている。中国の政変が無ければ荘則棟の時代はもっと続いたのではないかといわれていたし、そこから中国に移った覇権はその後も揺らぐことはなかったようだ。その頃、日本では長谷川信彦(=shakehandグリップ)と河野満(penholderグリップ)が首位争いをしていたが殆ど荘則棟に勝てず中国に覇権は移ってしまった。トップ選手のほとんどがpenholderグリップだったのだから、少年少女も多くがこのpenholderだった。県大会の予選あたりで眺めても私を含めてpenholderスタイルが圧倒的だった。

 

 しかし今、中国のトップ選手はほとんどshakehandグリップであり世界選手権のTV放送を見ていてpenholderグリップの選手を見たのは一人だけだった。日本人選手も水谷隼、張本智和、福原愛、伊東美誠、平野美宇などみなshakehandグリップの選手である。日本人選手も中国の覇権を脅かす存在になりつつあるが、未だ中国の覇権はキープされていてる。私の驚きはスタイルがshakehandグリップに移ってしまったことである。トップ選手は皆このスタイルになり、長く続いたpenholderグリップ(=軟式スタイル)の覇権は終わってしまったのである。巷の少年少女の卓球選手もきっとshakehandに代わっているのだろう。

 

 他方、テニスの世界であるが、Wikipediaで軟式テニスと検索するとソフトテニスが出てきて、発生と歴史の項には

「ローンテニスがイギリスで発生したのは1874年(明治7年)であり日本への伝播は早くて1878年(明治11年)といわれるが諸説が存在する。表孟宏編による『テニスの源流を求めて』には数々の説が紹介されているが、どれが事実なのかは特定できていない。なかでは明治政府の招きで来日[8]したリーランド博士がアメリカから用具をとりいれて、赴任校である体操伝習所(1879年創設)で教えたという説が一般に広く知られている。がこれとてそれを決定づける確たる証拠はないとされる(前書参照)。ただ遅くとも体操伝習所が廃校になる1886年頃にはゴムボールをつかったテニスが普及しつつあった。これはローンテニスのボールの国産が難しく、また輸入品も高価であったために、比較的安価であったゴムボール[9]を代用した、と伝えられる。」となっている。輸入品が使える金持ちは硬式テニスをやり中産階級以下で軟式テニスをやっていたということでしょうか。大学の先輩である清水善三氏は全英ベスト4(1920)、全米ベスト8(1922)というとんでもない英雄であるが、「三井物産カルカッタ駐在員時代に硬式テニスに初めて接して、本格的に硬式テニス選手としてプレーするようになる」とWikipediaには記述されている。つまりは、清水先輩は学生時代プレーしていたのは軟式テニスだったが硬式テニス部のOBということになっているのである。清水先輩は私の母校でもある高崎高校で軟式テニスに出会いとなっている、高崎高校でも彼が軟式の先輩となっているのか、硬式の先輩となっているのか尋ねてみたい気はする。

 

 軟式と硬式の分岐がどのように起こったものかは不明だが、たぶん色々なスタイルが混在して戦っていたかと思う。清水善三とチルデンの戦いについて書いた上前純一郎の『やわらかなボール』の表紙のイラストである清水善三氏のフォームはまるで軟式ではないかという形である。硬式テニスではラケットの素材がグラスファイバーなどの新素材で改善され軽くなったうえに弾きが良くなりラケットを振り回した打ち方が素人でもできるようになったと思われる。まるで軟式テニスのように強いドライブをかけるようになりグリップも厚くなりウエスタン、セミウエスタンというグリップのプレーヤーが増えているようだ。おまけにバックハンドは両手打ちが主流になり、バックサイドもドライブボールを打つことが当たり前になっている。スライスは繋ぐときにだけ使うようなスタイル代わってきている。錦織選手のプレーを見ていると、まるで軟式のようだと感じるのは私だけではないだろう。軟式テニスはソフトテニスとなり、前衛後衛の分業ルールが変わり、リーグ戦にシングルスが入るようになった。ソフトテニスに両手打ちバックハンドが主流になる日がきても不思議ないかもしれない。卓球界にshakehandが主流になってしまったようにドラスティックな変化が起こるかもしれない。

 

それにしてもである。卓球界では同じ球という土俵でshakehandpengripが覇権を争ってきた。一度はpenが下克上で天下を取り、shakeがまた天下を取り戻したようだ。一方でテニス界では別の球を使った別の競技になり2つのグリップ方式は分かれてしまった。おかげで軟式テニスは日本と一部の国で行われるローカル・スポーツになってしまった。野球にも軟式と硬式があるが、甲子園は硬式というように軟式はマイナーという印象である。実は卓球にも軟式・硬式があったのだが、軟式はなくなってしまった。軟式という言葉にはマイナーという印象がついてまわるし、おまけに軟式テニスはルールを硬式に近づけソフトテニスを名乗るようになってしまった。

 

あえて言う、軟式テニスは止めて硬式テニスに一本化したらどうだろう? 軟式テニスはどこまで行ってもマイナーである、世界に出て行った時にプレーするのは硬式テニスである。それに私は日本のテニスを強くしたいと思う。OBが軟式テニスを楽しむのは構わない、しかし新しい選手を育てるのを止めたらどうだろうということである。錦織選手を見ていると幼少時から一貫して鍛えることが強い選手を生むことにつながるのは間違いない。幼少時には軟式をやって長じて硬式に転向するのでは遅いのである。そして中学・高校で軟式テニスのクラブがあると、硬式のテニスのコートが生まれてこないのである。日本の土地の狭さから両方のクラブを並立させるほどのテニスコートはない。まして少子化の日本なのだから、二つのテニスクラブを並立させる必要がないだろう。よって、一橋大学球朋会は軟式・硬式の一本化の旗振り役というか嚆矢となってはどうだろう? キャプテン・オブ・インダストリーを名乗るならそれも役目かなという気がする。

 

 下手くそな私に言われたくないかもしれないが参考までに申し上げれば、軟式経験者が硬式に転向するのは昔より簡単になっているのではないかと思う。ラケットの素材開発で弾きの良くなったラケットで軟式のフォア・ドライブはそのまま打てる感覚に近くなった。バックは両手打ちが主流になっているのでグリップ・チェンジの微妙さに悩まなくてよい気がする。軟式経験者は軟式仲間の中でプレーするもよし、硬式の連中と遊ぶのもよしなのである。

 

 

中国といえば卓球のイメージがあるのはなぜ?発祥は別の国!?

https://www.hemule-blog.com/china-talk/tabletennis-origin#i-2

 

世界卓球選手権大会

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%8D%93%E7%90%83%E9%81%B8%E6%89%8B%E6%A8%A9

 

補論

1.      卓球でテニスと大きく違う事の一つはラケット面の裏表の存在である。卓球のラケットにはラバーが張ってあるが、裏表違うラバーが貼ってあるプレーヤーが当たり前にいる。どちらの面で打つかで回転と弾みが違うので、相手を幻惑することができる。テニスでは裏で打とうが表で打とうが同じであるからできない芸当である。

 

2.      卓球ではスライスのストロークをメインにしているプレーヤーがいるというのはテニスの人達には驚きではないかなと思う。カットマンと呼ばれるプレースタイルで、ワンバウンドさせてからしか打てない卓球だから通じるスタイルなのかもしれない。このスタイルでも世界選手権に出てくるプレーヤーはいる。逆回転のボールだからスピードは無いのだが逆回転と横回転を駆使して幻惑され、もたもた攻めあぐねて緩い球を打っていると逆に攻撃されて一巻の終わりとなることもある。