平成8年卒 中寺 文徳
現在人事部において駐在員マネジメントを行いながら毎年の新卒採用のお手伝いをさせて頂いています。ご活躍の先輩諸氏を差し置き採用のプロではない私がお伝え出来ることはいささか限定的であり、非常に恐縮致しますが、何等かの参考になればと思いご協力をさせて頂きました。また、現役の皆様に置かれましては少しでも就職活動の参考にして頂けますと幸いです。
<現在の採用活動概況>
1953年に始まったいわゆる大学側と経営者団体の間で結ばれた、学生の就職活動に関するルールであるいわゆる「就職協定」も1997年に廃止された後、「倫理憲章」が開始、2013年から「倫理憲章」から「採用選考に関する指針」へと改訂され、経団連は「2021年卒以降の学生を対象とする採用選考に関する指針を策定しないこと」を正式に発表し、2021年以降は政府が経団連に代わって新たなルール作りをすることになりました。ちなみに、現時点で政府から具体的な指示が出ていない状況であり、各社は採用活動の前倒し・通年採用等、従来以上に熾烈な採用活動が展開されています。
<2023年卒学生の就職希望状況>
2023年卒の就職活動において学生の皆様がどのような企業を選択しようとしているか。
ディスコ社のキャリタス就活 2023 学生モニター調査結果(2022 年 1 月発行)によると、文系男子では銀行、インターネットサービス、コンサル、女子ではマスコミ、インターネットサービス、銀行と並んでいます。全体としては時代を反映してか、インターネットサービス、情報処理・ソフトウェア産業への人気が非常に高くなっています。
一橋大学の2021年卒業生の就職先の1位は楽天(35名)、2位が三井住友銀行(15名)、3位が日本生命(13名)であり、文系の希望就職先とほぼ一致しています。金融・商社の人気が高いのは昔も今も変わらないものの、外資コンサル企業がかなり増えているのは昔とは異なる点と思われます。
また、就職先企業を選ぶ際に重視する点としては、1位が「将来性」。「社会貢献度が高い」「希望の勤務地で働ける」がコロナ禍前より増加しており、柔軟な働き方が「企業選びに影響する」と答えた方が9 割超となっています。
<2021年 一橋大学就職先:一橋大学HPより抜粋>
<就社 or 就職?>
我々が就職活動を行っていた頃、特に文系の学生において就職の際に大切なのは入社する企業であり、その中で何をやるかという事は本当に二の次でした。一方、今は学生時代の専門性をそのまま活かし、「将来このようなことをやりたい」という事を明確にイメージしながら就職活動をされる学生が増えてきました。その状況を踏まえて、当社でも初任配置の希望が具体的にある学生に訴求を行うために入り口を分けて採用を行う工夫をし始めました。
我々採用する側としては「自身のキャリアイメージが真っ白な方よりも、少しやりたいことを持っていてもらいたい、でも、そこまで凝り固まった考えを持っていてほしくない」というのが本音ではありますが、中途キャリア採用だけではなく、その方の持つ専門性をしっかりと生かすことが出来る企業がやはり選ばれるようになってきています。企業が採用において圧倒的な優位性を持っていた時代は過ぎ、優秀な学生を見極め、またその方のキャリアを自社の中でどのように組み立てていく事が出来るのかを採用時から想定をし、それを魅力的に学生に伝えていく力が求められる時代になったと感じています。
<広がる採用市場>
日本政府が労働施策総合推進法において2021年4月から正社員に占める中途入植者の割合の公表を義務化しました。背景には、少子高齢化による労働人口の減少と、働き方に対する多様な価値観の広がりへの対応となります。これを受けて例えばトヨタでは2018年に1割であった中途採用比率を中長期的には5割に引き上げるといった施策を打ち出しました。
当社においても従来採用ターゲットは国内大学からの新卒一括採用がメインでありましたが、昨今は特にDXビジネスへの対応、社員構成上のひずみ(特定の年代の社員が少ない等)を修正する目的と相まって中途採用を拡大しており、約4割が中途採用となっています。またグローバルに拡大しているビジネスを牽引出来る人財として、遅ればせながら日本人で海外大学に留学している方、また外国籍の方へと採用ターゲットを拡大しています。
<DE&I:Diversity, Equity & Inclusion>
採用において、大きく変わった点の1つとして男女採用比率が挙げられると思います。背景としては、よく言われているように「女性の社会進出意欲の向上」や「社会全体の労働者人口の減少」があります。当社においても自分が入社した時代において同期の女性は確か2割以下だったと記憶していますが、現在は例えば営業企画系社員においては概ね半数が女性、年によっては女性の方が多いという状況になっています。商社の丸紅が2024年までに女性の新卒採用比率を4-5割に上げると発表していることは「女性では商社の激務には耐えられない」という従来の考え方から転換しつつある動きとして非常に注目されています。結婚・育児を迎える社員に対しての体制整備、制度の拡充、女性役員・管理職社員の比率向上にいち早く真剣に取り組んでいる企業が今後競争に勝ち残る企業になると感じています。
<魅力的な職場づくりに向けての取組み>
先に女性比率向上に向けての取組について触れましたが、コロナを機に求められる働き方が劇的に変わってきていることについても触れたいと思います。コロナ禍においては出社を控える動きが国全体に広がったことを受け、企業はそれに対応すべく、フレックスや時差、在宅勤務などを矢継ぎ早に導入し、社員のエンゲージメント維持に努めています。当社においてもこの2年間で様々な制度が取り入れられ非常に柔軟な働き方が出来るように転換してきました。それでも極端に生産性が落ちていないと感じているのは、今までの非効率な働き方・時間の使い方を見直したことから生じた正の側面になります。一方で、社員間のコミュニケーションが極端に減ったこと、人によっては極端に仕事が増えたこと等による社員のメンタルヘルスへのインパクトも負の側面として表面化してきています。冒頭記載の通り、この柔軟な働き方は就職活動を行う学生からも非常に期待されている点であり、この流れは止められないため、マネジメント変革、福利厚生や諸手当など従来の人事制度の考え方を大きく変えていく必要があります。正直、我々製造業にとっては対応が難しい項目の一つになっていますが、うまく意識を変え、制度を設計することで更に社員のエンゲージメントを高めることが出来る機会にもなるため、特に営業や製造を抱える企業においては差別化の大きなチャンスとも考え知恵を絞っています。
企業の採用力を高めるためには、働き方、給与・福利厚生等目に見えるものに加えて、既に社内で働く社員のエンゲージメントを高めることも非常に大切であるため、自社の強みとなるEVP(Employer Value Proposition)を見つけ積極的に社内外に発信をしていくという取り組みが各社において行われています。コーポレートサイトや広告、求人サイトなど、あらゆるタッチポイントで一貫したEVPを伝え、社員やこれから入社の可能性のある人たちに、自社で働く価値を伝えていく活動になります。勿論、EVPと社員の認識にずれがあると社外に対しても伝わり方が弱くなるので、当社においてはEVPの基となるコアバリューを評価制度に盛り込み、マネジメント力・コミュニケーション力を高めるためのトレーニングなどを行うことで採用活動力強化につなげるように努めています。
<採用の流れとポイント>
少しでも現役の皆様の参考になればと思い、当社のケースを例にいわゆる採用プロセスをご紹介させていただきます。(一般的なプロセスですのでどこまでお役に立つのかはわかりませんが)
・いわゆる就職サイト(リクナビ等)に登録
・希望の会社の就職説明会へ登録・参加
・自身の希望に合致した場合、ES(エントリーシート)を作成し希望の会社にエントリー
・書類選考をパスした方に対して1次面接→2次面接→施設見学/SPI等→最終面接
現在、コロナ禍であり面接はWebで担当者が直接話をする形式をとっていますが、Webになると地方への出張面談の時間と費用が削減できる一方で、取れる情報が限定的になるため、どうしても見極めが難しくなるという弊害も有ります。就活を行う皆様にとっても、特に遠くにお住いの方にとっては時間と移動費用の節約になるため非常に効率的になる一方で、企業の面接官同様、限定的な情報の中で企業を選ばなくてはいけないという難しさがあります。この難しさや不安を取り除くための手段として採用面接とは別に実際に働く先輩社員と話をする機会を設けたり、Youtubeを利用したバーチャル施設ツアーを行う企業もあります。当社も毎年いろんな施策を手を変え品を変え講じながら就活生の惹きつけを行っています。また、最近は費用削減、評価基準の統一化、グローバルな採用への対応の為、AIを利用して過去採用された優秀社員の特徴を割り出し、ESの中からその方に近い方を優先的に自動選抜、AIによる面接なども行われている会社もあります。
これらのことを踏まえて、これから就職活動を行われる皆さんには、次のようなポイントを押さえておいていただきたいと思います。
・自分自身の強みと自分が働くうえで大切にしたいことを考える
・事前の企業研究や企業説明会などでその企業が大切にする価値観や求める人材像を確認し、そこに共感し合致するかを考える
・その会社での入社5年後の自身の活躍イメージを持てるかを考える
・就職掲示板などを確認して、自分が入りたい会社がどのような採用プロセス、面接スタイルをとるのかを事前に抑えておく
・可能ならOB・OGの伝手を使って行きたい会社の生の声を聞く
・採用活動の入り口となるESは本当にしっかりと記入する。当社ではAIは使っていないため書類選考の際には、採用担当が志望動機、特に学生時代に取り組んだこととそこからの学び、資格(英語その他)などを確認しています。
最後に、現役の皆様におかれましては、先に記載した通り現在は就社ではなく文字通り「就職」の意識を持ちながら活動を頂くのが自らの成長にとってプラスと思います。企業においてもいわゆる職能等級制度からジョブ型人事制度へ移行する企業が増えていく中、「終身雇用の崩壊」がそれほど遠くない未来に到来することをひしひしと感じています。若いころにおいては自身の強みを磨き続けることでどこにでも通用する専門性とエンプロアビリティを高めていってください。いろんな生きる道があるこの時代ですが、やはり社会貢献度が高く、自分のやりがいに繋がるような会社でがむしゃらに挑戦していってもらいたいと思います。皆様のこれからの成長と成功を心から願っています。
会員の皆様、現役の皆様、私の拙い文章をお読みいただき、誠にありがとうございます。私の知識不足から浅薄な内容になってしまっている点もあろうことと思いますが、何卒ご容赦願います。