角 直紀
今般、副幹事長を拝命したことをきっかけに寄稿の依頼をいただいた。あれこれ考えたが、球朋会員及び現役部員にも関心を持っていただける話題として、「新卒採用(学生にとっては就職活動)」を取り上げてみたい。
先ず、私のことを申し上げておくと、昭和63年に丸紅に入社し、人事部や経営企画部で13年所属した後、20年間来組織人事関係のコンサルティングに従事してきている。
丸紅人事部時代は、まさにバブル期の採用活動に従事していた。そして最近は、採用活動そのものをコンサルティングの対象とはしていないものの、クライアントの人事部がどのように採用活動をしているのかは仄聞してきている。
以下では、採用活動のあり方がどのように変わってきているのかを人事部の立場から見た上で、何が変わって何が変わっていないのかを掘り下げ、その中で球朋会という組織の可能性についての私見を述べてみたい。
1.新卒採用の今と昔
最近の新卒採用とバブル期の新卒採用を比較すると、大きな違いは「入口」にある。
具体的には、バブル期における一橋大学採用担当者(かつての私のことである)の採用活動は、名簿の入手とリクルーターの組織化からスタートした。すなわち、学生のデータがほとんどない中で、リクルーターやクラブの先輩などを通じて、志望者を特定し、そこに生きた情報を加えていくことによって質の高い母集団を形成していくのである。
この準備活動が採用活動の成否を握る。この母集団がしっかり出来上がっていれば、ライバルの動向を見極めて適切なタイミングで採用プロセスを進めることで、一定水準以上の学生に内定が出せるのである。
このようなアナクロな採用方法は、マイナビなどの学生データベースの登場とエントリーシート導入によって大きな変化を遂げた。また、SNSの普及によって、学生同士の情報共有が瞬時に行われるようになったことも大きい。
まず、採用媒体が学生のデータベースを構築したことにより、どの大学の学生も平等にアクセスできるようになり、情報が広くいきわたるようになったことから、機会平等が求められるようになった。
このことにより多くの学生にとっては、今まで事実上開かれていなかった企業にも門戸が開かれるようになったため、これは歓迎すべき事態と受け止められた。
しかし、これで困ったのは人事部である。
膨大な志望者のデータは手に入るものの、事実上、単に登録してみただけというケースも多い。優秀かどうかについても、限定された情報しかない。志望者の情報に、志望状況や採用できるレベルなのかといった生の情報を付加する以前に、処理可能なレベルの母集団にしていくことに膨大な手間が掛かるようになってしまったのである。
「インターンシップ」という、本来、就業体験を通じて会社の理解を深めてもらう場が、大学を絞り込みながら実施され、昨今、初期的なスクリーニングの場に変わってきているのは、そういった背景によるものである。
2.何が変わって何が変わっていないのか?
上記のように、採用活動の入口である情報収集プロセスには大きな変化が見られたが、実際のところ、「出口」である採用決定プロセスにはほとんど違いは見られない。相も変わらず役員の最終面接があり、お決まりの質問が役員から行われて最終決定がなされるのである。
そして、就職先のランキングは、ある程度は時代の移り変わりを示しているものの、今時点でのいわゆる優良企業に一橋大学卒業生が就職していること自体も変わらない。
伝統的な企業の人事部は、東大・京大や一橋大卒を一定数確保できると、優秀な学生が確保できた≒採用が成功したと感じるのである。
つまり、入口は変わったが、誰を採用するかという出口は変わっていないのである。
むしろ、大きな変化は、就職の意思決定をする学生側に見ることができる。
かつてのリクルーター制度は確かに機会不平等という問題はあったものの、OBとじっくり話す機会は、学生にとっても生きた情報を得る機会であった。
これに対して、現在の就職活動では、インターネットで情報をかき集めた二次情報を基にエントリーシートを書き、ネット上で試験を受けるということに膨大な手間をかける。
インターンシップについても、本来は会社の仕事を深く理解することが目的のはずが、学生向けのイベントの域を超えるものではない。あるいは、そういった機会と見せかけた選考過程だったりする。
あらゆる会社は自社のことを良い側面しか見せようとしないことは当たり前である。人事部のプロに掛かっては、学生の印象操作などお手の物と考えるべきであろう。
そう考えると、インターネット経由の就職活動というのは、二次情報と企業側の提供した見栄えのいい情報、そして、SNSを通じた情報というのが大きな情報源となってしまっている。このことは、元々存在していた学生側の情報の非対称性を更に大きくしてしまったように思えるのである。
更には、お仕着せの情報や根拠の薄い口コミをそのまま信じてしまい、その情報を比べて就職先を決めることの危険性に学生が気付いていないことにも危機感を覚えるのである。
3.球朋会の可能性
インターネットを通じた就職活動の情報の非対称性を克服するための一つの手段が、非公式ネットワークとしての球朋会にあるのではないかというのが、本稿の結論である。
ここからは、個人的な経験になってしまうことをご容赦願いたいが、かつて球朋会費を集めるためにOB訪問をしたり、球朋誌担当として度々常任幹事会にお邪魔し、大先輩の議論を横で聞いていたことは、学生にとっては「大人の世界」を垣間見ることができる貴重な機会であった。
諸先輩との触れ合いを通じて、どういう会社に入って、どういう仕事をして、どう感じておられるのかという事例を多く収集することができたのは、就職という入り口だけではなく、その後のキャリア形成においても大きな財産になったことは間違いない。
そこには、会社の人事部が見せる巧妙な会社情報とは違う「リアル」があったと思うのである。
かつてのOB訪問による球朋会費徴収というのは、諸事情により原則として廃止されたと認識しているが、学生が自らの問題意識においてOB訪問することを妨げるものではないと思う。球朋会費徴収という名目がなくとも、単なる就職の為のOB訪問でもよいのではないか。
現役諸君には、就職に当たっての生きた情報を得るために、積極的にOBを活用していただくようお勧めしたい。特に、入社して数年の若手だけではなく、入社したら先輩や上司になるような10年選手、20年選手、役職に就いているOBなどからは得られるものは大きいと思われる。人事部のフィルターに掛かっていない貴重な情報が得られるはずである。
また、かかる状況を踏まえ、球朋会員諸氏におかれては、是非とも学生に時間を割いていただければと思う次第である。